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峯山簡易裁判所 昭和38年(ろ)51号 判決

被告人 甲

主文

被告人を罰金七、〇〇〇円に処する。

右罰金を完納することができないときは金二五〇円を一日に換算した期間労役場に留置する。

理由

(事実)

被告人は公安委員会の免許を受けないで昭和三八年七月九日午後一〇時一〇分頃京都府竹野郡網野町字網野新菓子屋前十字路上に於て第二種原動機付自転車を運転したものである。

(証拠の標目)(略)

(適用法令)

道路交通法第六四条第八四条第一項第一一八条第一項第一号(罰金刑選択)罰金等臨時措置法第二条刑法第一八条

本件被告人は満二〇年に達しない少年であるが少年法第五四条は別紙記載の如く憲法第一四条の法の下の平等に反する規定と解して適用しないことにした。

仍て主文の通り判決する。

(裁判官 辻野利一郎)

(別紙)

例外の場合を除き一般に少年は自己の財産を保有せず無財産又は無財産に近き者多く少年に対し罰金刑を科した場合は少年法第五四条を適用するの結果として当該少年が何等かの方法により金策の上自ら納付するに非ざれば執行の方法なく然らざるも執行は極めて困難であり、結局刑の宣告は有名無実に帰し(有名無実となるも亦可なりとの意見があるかも知れないが私は斯る意見には反対である)当該裁判確定後はその被告人が罰金未納のまま成年に達するも、最早労役留置を改めて宣告する旨の規定存せず全く裁判は形式的処罰を宣告したにすぎなくなり全く不当不可である。

遅れたる裁判が裁判の拒否に等しきと同様執行不能に期す処罰を科すは児供の遊戯に等しく刑事裁判に於ては何等の価値がないものと思料される。

当該少年が自ら自発的に罰金の納付を為せる場合と雖もその大部分は自己自らの出捐によりて為すに非ずして父母等の親族又は勤先の主人等よりこれを貰い受けて納付するものにして斯る実情は前記納付なき場合と同じく当該少年が形式的な処罰を受けたにすぎないのみならず実質は現金の出捐者が処罰を受けたに等しくその罪九族に及んだに近く近制刑事法の本義にも反し甚だ不当不可である。

近制刑事法による刑は応報に非ず教育刑でなければならないとの考えあるも体刑の場合は兎も角罰金刑についても斯る考えをとることが果して妥当か甚だ疑わしく体刑の場合に比し金刑の場合は応報的色彩濃厚なりと思料せられる。而して少年法の適用されるや否やは被疑者、被告人の疑われている罪を犯した時期、即ち犯罪時に非ずして当該被疑者、被告人の現在年令が少年なりや否やによつて定まる。然るが故に公訴提起時少年法の適用を受けた被告人が判決時には少年に非ずして成年となり成年の被告人として少年法の適用を受けずして処断された事例、並に第一審判決時少年法の適用を受けて処断されたに拘らず上訴による日時の経過により成年となりしため第二審判決時には少年法の適用なく成年として処断された事例は枚挙に暇がない。斯る状況は甚だ不公平なものといわねばならない。今ここに生年月日を異にする同年令の甲乙両名が丙と口論に及び甲乙共謀の上丙を袋たたきにし傷害を負わせた事案に対し犯時両名少年なるも起訴時並に裁判時に於て甲のみ成年に達し居り刑責全く同じきに拘らず乙に対しては労役留置の言渡を為し得ずしかも両名共に無財産なる場合に思いをいたせば甲は労役留置の執行を受けねばならず、乙はこれなく甚だ不公平な結果に帰すべく斯る状態を発生せしめること自体が不当不可である。

法律の適用は事実発生の時に施行中のものなるを原則とすることは云うまでもなく刑法第六条に於ても犯罪後の法律に云々なる旨規定しある事実に徴して思考するも少年法第五四条の存在するがため前示の如く日時の経過により言渡すことの出来なかつた労役留置の言渡を為すことを義務づける事態の発生を生むものであつて斯ることは刑法第六条存在理由の本旨にも反し許されるべきものとは考えられない。然しながら少年法第五四条の文言はこれを如何に解釈するとも「少年時の犯罪については労役留置を科さない趣旨」又は「少年に対して労役留置の執行のみをしない趣旨」と解することも出来ず又前示の如く当該被告人が罰金未納のまま成年となりたる場合に対処する何等の規定もなく斯る事実は少年をして特権階級的な扱いをするに等しく現行少年法第五四条の存在は相当ではないと思料する。

少年に対し保護育成面よりして起訴前処分として特別の手続をとることは兎も角、少年と雖も公訴の提起を受け被告人の地位につきたる以上裁判所が少年なるの故を以て特殊規定を適用して処分することは憲法上第一四条の法の下の平等の本旨を侵すことになり斯る処分を強要する少年法第五四条は右憲法の条文に違反するものと解し本件についてはこれを適用せず一般の規定たる刑法第一八条を適用することにした。尚少年法第五四条を少年に対しては成年に達するまで労役留置の執行をしない趣旨に改めるか、少年時の犯罪に対しては成年に達する後の裁判に於ても労役留置の言渡をしない旨に改めるならば憲法違反とはならないものであり刑法第六条の趣旨にも亦そうものと思料する。

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